大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和地方裁判所熊谷支部 昭和49年(ワ)190号 判決 1977年12月26日

原告

杉浦憲司

被告

門井泰助

主文

一  被告は原告に対し金二七三万円、およびこれに対し昭和四九年一二月二〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の、その一を被告の負担とする。

四  この判決は一項に限り金五〇万円の担保を供するときは仮に執行することが出来る。

事実

第一原告

1  求める判決

被告は原告に対し金八〇九万〇五三七円、およびこれに対し本訴状送達の日の翌日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行の宣言の申立。

2  請求原因

(1)  原告は昭和四七年一二月一二日午後八時四〇分頃熊谷市大字熊谷三三一二番地の一七号国道と熊谷駅前通りの交差点を訴外森田貢朗運転の自動二輪車に同乗して北方より南方に向つて交通信号青の標示に従つて直進したところ、同交差点内において対向北進してきた被告運転の乗用自動車(以下本件自動車という)が突如右折したため、原告同乗の前記二輪車に衝突し、同二輪車は同交差点の南東角に投げ出され、よつて原告は治療約一〇月を要する右膝関節後十字靱帯断裂の傷害をうけた。そしてその後遺症として右膝関節屈曲障害により正座不能、右膝屈曲制限をきたし、屈曲は左が自動、他動とも各三〇度であるのに対し、右は自動五五度、他動六〇度であり、右下肢支持能力なく常時介要を要し、これは自賠法施行令別表一〇級一〇号に該当し、このような後遺障害を有するに至つた。そして原告は労働能力を一〇〇分の二七失なつた。なお被告は本件自動車の保有者である。従つて原告は被告に対し自賠法三条にもとづき損害賠償の請求をする。

(2)  原告の右事故による損害は次の通りである。

イ 得べき利益の喪失

金一〇、四四一、二二九円

原告は現在満二〇年であり、就労可能年数は六七歳迄四七年間あり、男子平均賃金月額金一〇七、二〇〇円と年間賞与等平均金三三七、八〇〇円との合計年一、六二四、二〇〇円となり、後遺症第十級の労働能力喪失率百分の二七であるから年間金四三八、五三四円の所得減となり、之が四七年間の年五分の利息を以てホフマン式割引による現在額は金一〇、四四一、二二九円となる。

ロ 慰藉料

金二、八一三、〇〇〇円

(1) 入院通院慰藉料 金八〇三、〇〇〇円

入院四ケ月、通院六ケ月

(2) 後遺症慰藉料 金二、〇一〇、〇〇〇円

ハ 附添費及雑費 金二三万円

(1) 附添費一日二千円宛一〇〇日間

(2) 雑費一日三百円宛一〇〇日間

以上合計金一、三四八万四、二二九円となるところ、自動二輪車運転の訴外森田貢朗にも多少の過失(速度超過)あるものとしてその過失割合を被告六〇%、訴外森田貢朗四〇%とすると、被告が原告に賠償すべき損害額は金八〇九万〇、五三七円となる。よつて原告は同金員および本訴状送達の日の翌日である昭和四九年一二月二〇日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による支払を求める。

3  証拠〔略〕

第二被告

1  求める判決

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

2  答弁

(1)  請求原因(1)項中原告主張の日時場所で訴外森田貢朗運転の自動二輪車と、被告運転の本件自動車が衝突したこと、および右自動二輪に原告が同乗しており、原告が右事故により負傷したこと、被告は本件自動車の保有者であることは認めるが、負傷および後遺症の程度については不知、同(2)項については不知。

(2)  本件自動車による事故は被告にも多少の過失はあるが訴外森田貢朗にも過失があり、被告のみの一方的過失ではない。

3  証拠〔略〕

第三被告補助参加人

1  原告の後遺障害を前提とする請求は失当である。即ち原告には本件事故による後遺障害は存在しない。被告補助参加人は昭和五〇年七月一四日自動車保険料率算定会大宮調査事務所に診断書(甲一号証の一)自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書(甲一号証の二)など本件一件書類を送付し、本件後遺障害の認定を依頼したところ、同年七月一七日右算定会医療費調査部より「原告の右膝関節の屈曲障害について提出診断書の角度測定結果より規定に達せず非該当と判断いたします」旨の認定結果をうけた。

かりに、原告に後遺障害が存するとしても、原告の右膝関節屈曲障害は伸展一八〇度、屈曲六〇度である。自動車損害賠償責任保険後遺障害認定実務手引書(昭和四四年四月前記算定会自動車損害賠償責任保険部作成)、労災保険の障害認定必携によれば関節の機能障害に関し「著しい障害」とは、その関節の運動可能領域が生理的運動領域の1/2以下に制限されることであり、単に「機能の障害」とは3/4以下に制限される場合をいうとしている。通常、正常人の膝関節は伸展一八〇度、屈曲三五~四五度とされ、運動領域は一三五~一四五度とされている。従つて正常の膝関節の生理的運動領域の3/4とは一〇一~一〇八度となる。そうであるから原告の右膝関節屈曲障害は「関節に著しい障害」にも「関節の機能に障害」にも該当しない。

2  証拠〔略〕

理由

原告主張の日時、場所で訴外森田貢朗運転の自動二輪車と、被告運転の本件自動車が衝突したこと、および右自動二輪車に原告が同乗しており、原告が右事故により負傷したこと、被告は本件自動車について自賠法にいう保有者であることは当事者間に争がない。従つて被告は右事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。原告本人尋問の結果、同結果により真正に成立したと認める甲一号証の一、二によると、原告は昭和四七年一二月一二日午後八時四〇分頃右事故にあい受傷し、急救車で間もなく熊谷病院にはこばれ入院し、その後である同年一二月一四日小久保整形外科病院に転院し、同日から昭和四八年四月五日まで一一三日間入院治療をうけ、同年同月六日から同年一一月六日までの間二九日間通院治療をうけ、その後は治療をやめたこと、原告の傷病名は右膝関節後十字靱帯断裂、右膝関節血腫、右膝部挫創、腰部打撲であること、右受傷のため原告は右膝関節屈曲障害により正座不能という後遺障害が残つたこと、原告の右膝関節の屈曲は自動で五五度、他動で六〇度、伸展は自他動ともに一八〇度であること、なお左膝関節の屈曲は自他動ともに三〇度、伸展は自他動ともに一八〇度であることが認められる。

原告は右後遺障害による労働能力喪失のため得べかりし利益を喪失したとして被告に対し損害賠償を請求しているが、上記認定に供した証拠に加えて、証人海老原美夫の証言、同証言により真正に成立したと認める乙一号証を総合すると、原告は本件事故当時は一七歳の男子で聖橋工業高専の三年生であり同校を本件事故のため一年留年して埼玉工業大学に入学し、機械工学を学んでおり設計部門に進みたいと考えており、エンデニヤを希望していること、現在では受傷のため正座は出来ないが自動車の運転、スキーなども出来、歩行も普通に出来、たゞ人よりやゝ疲れが早く出ることが認められる。この認定を覆えすに足りる証拠はない。これら認定事実に加えて既に認定した事実を加えると、原告が本件事故による傷害のため、将来にわたり労働能力を喪失して得べかりし利益を失なつておると認めるには十分でなく、原告提出の全証拠をもつてしてもこれを認めることは出来ない。従つてこの点についての原告の請求は理由がない。しかしこれらの認定事実は原告の慰藉料請求について斟酌されるべきである。そこで慰藉料につき判断するに前記認定の受傷の部位、程度、入院通院期間、後遺障害、その他諸般の事情をあわせると、原告の慰藉料は金二五〇万円をもつて慰藉されるべきである。次に原告の付添料、雑費の請求であるが、右受傷の部位、程度からして原告の請求は相当なので全て認容し合計金二三万円を損害と認める。

従つて原告の本訴請求は右金額の合計金二七三万円および本訴状送達の日の翌日である昭和四九年一二月二〇日(このことは記録上明白)から支払ずみに至るまでこれに対し民法所定年五分の割合による遅延損害金の限度で理由があるものとして認容しその余の請求は理由がないものとして棄却し、訴訟費用の負担については民訴法九二条本文を、仮執行の宣言については同法一九六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 中澤日出国)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例